「無理もないことですよ、奥さん。」 　老人は、私をなぐさめるように言いました。 　「愛情とは、日々すりへっていくものなのです。すりへった 　気持ちをいくら合わせようとしても、すきま風が吹いて 　しまうのです。」 　老人はそう言うと、古びたカバンから、何やら四角く 　たたんだ布をとりだしました。

「奥さん、これは私の開発した新商品『すきま壁』です。」 　老人は、二メートル四方の布を広げると、リビングの 　壁にピタリと張りつけました。 　「どうです？こうして見ただけでは、全く気がつかない 　でしょう？でも、この『すきま壁』が、お宅に吹くすきま風 　をしっかりと防いでくれるのです。まずは一週間、 　お試しください。」 　壁屋の老人はそう言うと、あっという間にカバンを抱えて 　出て行ってしまいました。 　　　　　　＊　　　　　　　＊　　　　　　＊ 　「『すきま壁』ですって？冗談じゃないわ。あのじいさん、 　頭でもおかしいのかしら？」 　　私が、リビングの壁に向かって、大きくため息をついた 　ときです。