「奥さん、そこにあるティーカップですがね。そいつは結婚二十周年の記念に、 　ご主人がプレゼントしてくれたものでしょう？それを見た瞬間、どう思われまし 　たかな？」 　　私は気味が悪くなって老人を見つめました。 　「おかしいな？とは思われませんでしたか。ご主人は毎年何軒も店を回っては 　奥さんの好みの、かわいらしい模様のカップを見つけてきてくださったはず 　です。 　ところがどうです？まるで今年のカップは、何も考えずに、行きあたりばったり 　に買ったみたいに素っ気ないカップじゃないですか。」 　「そうかしら？シンプルで素敵だけど・・・。」 　　と私は、白い無地のティーカップを取りあげました。でも、実は老人の言う 　とおりでした。大げさに喜んで見せたものの、何だか今年のカップは物足り 　ないなと感じていたのです。