数日後、わたしは、また公園に出かけました。お春さんに、あの興奮を伝えたかった からです。ぐるりと公園内を歩いていくと、わんぱく広場に、お春さんの姿を見つけました。 ヤマブキ色のベレー帽をかぶっています。今日のお春さんは、鮮やかな黄色の毛糸で、 編み物をしていました。 「お春さん、わたしね、ゾクっとしたのよ」 お春さんは、にこにこしながら、編み棒を動かし続けています。 「ねぇ、お春さん。編んだ作品は、誰かにプレゼントするの？」 お春さんは、少し首を傾げました。 「プレゼントといえば、そうかしらねぇ…」 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊ 　　　＊　　　＊　　　＊ 　四月の公園はたくさんの色に包まれます。レンギョウの黄色、ユキヤナギの白、ポピー のオレンジ、スミレの紫、シャクナゲの赤…。 あちこちのベンチで、お春さんを見かけました。わたしは、ポットのコーヒーと、焼き立て のクッキーを持って、お春さんとベンチでおしゃべりするのが、楽しみになりました。 　でも、お春さんは、いくら勧めても、 「いえ、わたしは、結構」 と、コーヒーにも、お菓子にも手をつけないのです。そして、 「それより、何かお話してちょうだい」 と、わたしにせがむのでした。お春さんは、とても聞き上手でした。わたしは、数年前に 夫を亡くしたこと。夏の夜に、よく夫とこの公園で、ウォーキングしたこと。歩いた後は、 外灯の近くで、二人でラジオ体操をしたこと。夫の後ろで、ピンクのサルスベリが鮮やか に咲いていたことなどを、話しました。 「ありがとう。今日も、いいお話聞かせてもらったわ。お話を聞きながら編み物をするとね、 とても素敵な作品に出来上がるのよ」 そう言って笑うお春さんは、何だか少しやつれたように見えました。 「少し、休んだ方がいいんじゃない？それに、何か食べた方が…」 お春さんの顔を見ながら、わたしは、ふと疑問に思いました。お春さんは、毎日何時まで、 公園にいるのでしょう。いつ、食事をして、いつ家に帰っているのでしょう。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　nexｔ