　
　翌朝、早く目が覚めてしまったわたしは、公園に行ってみることにしました。
昨日のお春さんの様子が、気になっていたからです。
何だかいつもより、編み急いでいたような…。
　まだ薄暗い公園の中を、わたしは歩いていきました。確か昨日お春さんは、
ハナミズキの傍のベンチにいたはずです。ピンクと白の混じった毛糸でカバーを
編んでいました。
「お春さーん！」
わたしは、広場の反対側のベンチから、お春さんを見つけて、呼びかけました。
　お春さんは、わたしの姿に気づくと、ベンチから立ち上がって、手を振りました。
そのあと、近づいていこうとするわたしに、「そこで待って」という仕草をしました。
　そして、今編み上がったばかりのカバーを手に取ると、大きく広げて、思いっきり
放り上げたのです。
ピンクと白のカバーは、二本のハナミズキの上にかかると、ほわりと消えてしまい
ました。でも、その途端、それぞれのハナミズキが、さわやかな色気に包まれ、
輝き始めたのです。満開のサインです。
わたしは、思わず、拍手していました。ついに、お春さんの正体がわかったのです。
「お春さんは、春を編む人だったのね！」
わたしが叫んだ時、お春さんは、満開のハナミズキの向こうに、消えてしまいました。

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　それ以降、公園でお春さんを見かけたことはありません。でも、きっと見えない
だけで、今もどこかのベンチで編み物をしているのだと思います。
誰かの話に、耳を傾けながら。
その年の桜が、少し寂しげに見えたりするのは、きっと誰かのお話のせいなのです。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

THE 　END