「また、キャンセル待ちですか？」 と、受付の男が、呆れたように私を見上げる。 私は、無視して、リストに名前を記入した。 「そろそろ、三年になりますよねぇ…。もう、こちらの生活に目を向けたらいかがですか？ 天国名所ツアーには、全部行かれました？」 禿げ頭の受付係を見下ろしながら、この男の年齢はいくつだろうと考える。 地上で送った年齢と、こちらに来てからの天国年齢。私達には、二つの年齢がある。 私は、五十九歳でこちらに来たが、天国年齢は、まだ二歳だ。 「だいたい、二年を過ぎたら、普通に予約ができないって、おかしくありませんか？ どうして、二年以内の人が優先なんですか？」 わたしは、少し不機嫌になって、尋ねた。 「それはですねぇ…」 と、眼鏡をずり上げながら受付係が答える。 「がっかりされる方が、多いからですよ。二年、つまり三回忌を過ぎますとね。ご遺族の 方も、それぞれ気持ちに区切りをつけて、前を向き始める。時には、亡くなった人を、あえて 忘れようとすることもあるんです」 「結構なことじゃないですか」 「はい。必要なことです。でもね、この天国のモニター室から、大切な人を見守るこちら側の 人間にとっては、辛いことです。自分がいなくても、残された人達が、普通にやっていけると、 認めることは…」 私にも、そんなふうに感じるときが来るのだろうか。ロビーの椅子に座りながら、地上での ひとコマを思い出す。 next  |