「どうです？素晴らしいでしょう。これは、ロンドンにある、 　 　王立の動物園です。もう、さっそく契約された方が 　いらっしゃるんですよ。何名も。」 　「ちょっと待ってよ。今、お金を払って、来世で、どうやって 　 　たくさんの動物の中から、契約者を見分けてくれるんです？」 　　私は、少しバカバカしくなって、たずねた。 　「ご心配いりません。契約者の死亡年月日とご生前の 　あらゆるデータをコンピューターに入力いたしまして、 　当社の秘密のシステムで、必ず契約者を見分けられる 　のです。たとえ、何百頭のシマウマの群れの中でも、未来の 　優秀な社員達が、奥様を間違いなく発見し、ご契約の動物園 　までお送りいたします。」 　　何とも、眉つばな話だが、生前から自分のお墓や葬儀まで 　予約する、この世の中だ。来世の自分を保証する保険が 　あっても、おかしくはないのかもしれない。　　　　　　　　 　「大変面白いお話だけれど、今のところは結構よ。新しく 　　保険に入る程の余裕もないし・・・・・・」 　私は、やんわりと断った。ヤギ男は、少しもひるまずに、 　こう続けた。

「奥様の気持ちは、よくわかります。きょう聞いて、すぐに 　契約というわけにもいかないでしょう。実は、そんなお客様の 　ために、無料の体験ツアーをご用意してあるのです。」 　「体験ツアー？」 　「来世の動物になったご自分を、もよりの動物園で体験して 　いただくのです。実は、ご近所のＳ夫人も、ライオンの部で 　体験中です。」 　　Ｓ夫人といえば、たてがみのような髪型で、ねらった相手は 　必ず捕まえて、ご近所の噂話を延々とする、評判の悪い 　ご婦人だ。私は、ちょっと、ライオンの部を体験している 　Ｓさんを覗いてみたくなった。 　「ご参加していただけますね。えーっと、水牛の部、 　じゃなかった。シマウマの部でご体験と・・・・・・・。 　ぜひ、お待ちしております！」