「『記憶図書館』？」 　　「はい。あちらでは皆さん、平和すぎて退屈なさって 　　いらっしゃいますから、、、。この世の皆様の想い出を 　　読むのを、そりゃあ楽しみにしていらっしゃるのです。」 　　「他人の想い出を勝手に読むなんて。」 　　私は､眉をしかめました。 　　　「いえいえ、こちら様にご迷惑がかかることは、 　　　決してございません。それどころか、ちゃんと利子が 　　　つくのです。」 　　　「利子？」 　　　「素晴らしい利子です。想い出一件につき、お客様 　　　は、半日、長生きできることになっております。」 　　　男は、得意気に続けました。 　　　「もちろん、お預かりした想い出は、満期日に、 　　　そっくりお返しいたします。金色の表紙をつけて、 　　　一冊の立派な本にいたしまして、ご本人に進呈

させていただきます。」 　　「満期日って、まさか、、、」 　　「ええ、そのつまり、お客様がお亡くなりになる 　　　日のことです。」 　　男はちょっぴり、言いにくそうに答えました。 　　 　　「ですから、お客様はあちらに行かれましてから 　　ですね、じっくりと、ご自分の想い出をお読みに 　　なればいいわけでして、、、。 　　 　　　もっとも、皆さん、すぐご自分のは読み終えて 　　　しまわれます。そこで、『記憶図書館』に 　　　 　　　いらっしゃるわけです。」 　　　「なるほどね」と、私は納得しかけて、ハッと 　　　 　　　しました。