| 割り箸の人/おびきみつこさんの覚え書 文：橋本圭一 |
| 昨年の暮れに、おびきみつこさんは、『詩とメルヘン』特別賞を受賞された。四月号に載った受賞の 言葉は、次のような文で始まっている。 今から二十年前、創刊されたばかりの『詩とメルヘン』を手にとった私は、 割りばしのようにか細い高校生でした。 高校生の頃のおびきさんを僕は知らないけれど、今もおびきさんは、すらっと背が高くて痩せていて、 本当に割り箸のような人だ。といっても、大衆食堂のテーブルの端にむき出しのまま立っている割り箸 ではない。お正月に使うような、箸の包み紙に赤く「寿」と字が刷ってあるような、丸みを帯びてスラリと した、上品な割り箸。 ＊ 僕が、『詩とメルヘン』を読み始めた頃には、すでにおびきさんはメルヘンのページの常連さんだった と思う。そしてたびたび見かける「おびきみつこ」という名前を僕は「おびつきみこ」と勘違いして覚えて いた。 カヌーで川下りの旅をする野田知祐の本をその頃僕は愛読していて、そのなかの一冊に千葉県 房総半島を流れる小櫃（おびつ）川の事が書かれていた。繰り返し野田さんの文章を読んでいた僕の 頭には自然と、小櫃川、という単語が記憶されたわけで、『詩とメルヘン』で「おびきみつこ」の活字を 目にした時も、何の疑問もなく「おびつ・・・」と読んでしまった。きっと「小櫃」という漢字が難しいから、 平仮名のペンネームにしているのだろう、と勝手に納得していた。その後、読み違いに気付いたのが、 おびきさん本人とお会いする前だったことがせめてもの救いだったけど、名前を間違えるというのは、 相手をとてもがっかりさせてしまうもので、おびきさん御免なさい。 ＊ 『詩とメルヘン』の古い号をめくっていたら1995年6月号におびきさんの「セイタカシギの季節」という 作品が載っていた。読んだ後に鳥の図鑑を見ると、セイタカシギは、ほっそりとスタイルの佳麗な鳥で、 おびきさんに似ているなあ、と思わずにはいられなかった。だけどやっぱり、ユーモアのある感じを 現している点で、おびきさんは、セイタカシギの人よりも、割り箸の人のほうがぴったりだ。 ＊ さて、七月の暑い日のこと。なんとなくパンダを見たくなって家を出たら、郵便受けにおびきさんから メルヘン在中と書かれた封筒が届いていた。そのまま持っていって、動物園の木陰で「ダメ出し男」 の話を読んだ。原稿用紙八枚に、背筋の正しい文字で丁寧に書かれていた。「うたたね」には勿体無い と思ったけれど、それよりも嬉しい気持ちのほうが、はるかにたくさんだった。 それからもうひとつ、おびきさんのホームページを見ていたら、高田渡のことが書いてあったので、 僕はとてもうれしかった。高田渡といえば、偉大なるフォークシンガーであり、また、ただの酔っ払いの オジサンでもある。おびきさんがクラシックギターを弾くことは知っていたけれど、アンダーグラウンド・ フォークのファンであるとは、意外な組み合わせだ。いつか、おびきさんと一緒にギターで高田渡の歌を うたうのが、さいきん出来たあたらしい夢・・・・・・。 （この文章は、2000年１０月、「うたたね4号」で、橋本圭一さんが書いてくださったものです。） |