「あんたは知らないだろうけど、この家にも”福”がある。 あんた達家族が『幸福だな』と感じるとき、”福”はできるんだ。 ぼくは、それを毎日食べて生きているのさ。」 「なるほどね。」 「去年、七階の角の家から出てきた青鬼なんか、ひどかった よ。食べるものがなくて、まるっきりやせちまってさ、、、。」 「ああ、あの離婚したご夫婦ね。」 「残った奥さんが、厄払いにって、盛大に豆まきをやって くれたおかげで、やっとあの家を出られたんだ。」 「鬼もいろいろと大変なのねぇ。」 私は同情しながら、青鬼の体を上から下までながめた。 「あなたを見るかぎり、わが家もそこそこ幸せだってことかしら？」 「まあね。何ヵ月かに一度くらい、ひもじい思いをしたことも あったけど、、、。実は”福”がありすぎるのも困るんだ。 つい食いすぎて、太りすぎちまうからね。昔話の鬼みたい にさ。」 青鬼は、自分の身体を満足そうにながめた。

「ここの家の”福”の味も 悪くない。まあまあって とこかな。でも、やっぱり 毎日同じ味じゃ あきちまうんだ。 そろそろ限界だな。」 「そう言われてもねぇ 、、、、。」 私は、ため息をついた。 「わかったわ。来年こそ、盛大に豆まきをして、景気よく 追い出してあげるから、何とかそれまでがまんしなさいよ。」 　青鬼は、仕方なく肯いた。 「わかったよ。そのかわり、住み替えによさそうな家、 教えてくれないかなあ。」 「OK!ほどほどに幸せで、わが家とは、ひと味違って、節分 の行事を盛大にやる家ね、まかしといて！