断る暇もなく、私の体はあっいう間に 　男の体に引き寄せられていました。 　ぴたりと男に寄り添いながら、私の体は、 　まるで違う生き物のように、するすると床 　の上をすべっていきました。強い整髪料 　の香りと、甘くとろかすようなバンドネオン 　の響き・・・。私は、思わず我を忘れて、 　うっとりと目を閉じました。 　そのときです。最後の曲が終わって、 　すべての男女がぴたっと動きを止めまし 　た。一瞬の静けさが、あたりを包みました。 　男は、突然私をはねのけると、テーブルの 　方に向かって走り出しました。それを合図 　にダンスをやめた男女たちも、一斉にテー 　ブルめがけて、かけだしました。 　いつの間にか、テーブルの上には、小さ 　な黒い影が次々と集まってきていました。