私が忙しいときや、夫が家にいるときは、マカベ君は壁の中 　にいます。すっかり気持ちが満たされている私は、疲れて 　帰ってくる夫に、やっと優しい声をかけてあげられるように 　なりました。多少の夫の欠点も、最近は気になりません。 　何しろ、私には、あのマカベ君がいるのです。私は、一日に 　何度も、うっとりと壁をながめることが多くなりました。 　　　　　　　＊　　　　　　　＊　　　　　　　　＊ 　ところがある日のこと。食後のコーヒーを飲んでいた私は、 　私と同じように、うっとりと「すきま壁」を見つめながら、 　ニタニタと笑っている夫の姿に気づいたのです。私の中に、 　ある疑惑がむくむくとわきあがりました。 　「もしかして、あなたも・・・！」

そのときピンポンと音がして、いつぞやの壁屋の老人が、 　玄関に立っていたのです。 　「いかがですかな？すきま壁の効果は？」 　老人は、何も言えずにいる私達を無視して、部屋に 　入ると、壁に向かって、パンパンとふたつ、大きく手を 　叩きました。するとどうでしょう！壁の中から、マカベ君が 　出てきたのは、いうまでもありません。ところが、その 　マカベ君と一緒に、私が今まで見たこともない、若く 　美しい女性が並んで立っていたのです。