そして、一週間目の朝、わたしは、ぬか床の 　中でモゾモゾと動いている、小さな生き物を 　発見したのです。わたしは、ぬかみそまみれ 　のそれを、そっとつまみあげると、ボウルの 　水で、ていねいに洗い流してやりました。 　きれいになってみると、それはまさしく、小指 　の先ほどの“わたし自身”でした。顔も髪型も 　わたしそっくりでしたが、その身長からすると、 　ウエストのあたりが、かなり太りすぎている 　ように思えました。 　「ちょっとあんた！何ジロジロ見てんのよ！」 　そのとき、ちっぽけな“わたし自身”が、 　ブラブラ手足をふり回しながら、叫びました。 　「早く、アタシを飲みこみなさいよ。さもなけ 　りゃ、何でもいいからさ、早く食べさせて。 　もう、おなかがペッコペコなの！」 　そう言われて初めて、わたしはマキノ夫人に 　言われたことを思い出しました。＿＿＿卵から 　“あなた自身”がかえったら、できるだけ 　早く、飲みこむこと。さもないと、大変面倒な 　ことになるわよ、とくれぐれも念を押されていた 　のです。