そんなことばかり考えていたからだ 　ろうか。 　　玄関のチャイムが鳴って、来訪者と 　向き合ったとたん、私はふきだしそうに 　なった。 　「未来型動物保険に入りませんか？」 　　そう言った男は、郵便局員風の制服を着て、きちんと帽子を 　かぶっていたが、その青白く細長い顔は、ヤギにそっくりだった 　のだ。 　「動物保険ですって？」 　　私は、笑いをこらえながら聞いた。 　　男は、ヤギのようにカン高い声でメエェと笑うと、営業用の 　笑顔をつくった。 　　「奥さん、私達は、来世でも同じ人間に生まれてくるかどうか、 　わかりません。 　　　現在、どのように立派な地位におられる方でも、生まれ 　変わったら、ゾウ、カバ、キリン、ダチョウにラクダ・・・・・・。」 　何に生まれ変われるか、神のみぞ、ご存知なのです。」 　　ヤギ男は、ここでひとつ、せき払いをすると、ちょっと深刻な 　顔をつくって見せた。

「ただでさえ、住みにくい世の中です。自然破壊の進む中、 　動物たちの環境は、どんどん悪化しています。 　運良くジャングルの王者に生まれ変われたとしても、 　密猟者や山火事、干ばつや食糧不足・・・・・・。それはもう、 　さまざまな危険が、私達を待ち受けているのです。」 　　ヤギ男は、私をじろりと見渡すと、ズルそうな笑いを 　浮かべて言った。 　「そうですね。たとえば、奥様が、次の世で、何かの動物に 　生まれ変わったといたしましょう。うーん、そう、奥様の優しい 　お顔立ちと長いおみ足からして、草原をかけぬけるシマウマに 　生まれたとご想像なさってください」 　「シマウマだなんて・・・・・・。ウフフッ、でも、これでも結婚前は 　夫に、『カモシカのような　人だ』なんて言われてたんですよ。 　　最近じゃ、こんなに太っちゃって、『もはや、水牛だな』 　なんて、言われてますけど。」