| そこのおじょうさん、そうあなたです。どうしました？そんなに背中を丸めて・・・。 このところ、ツイてないことばっかり、ってお顔ですね。 どうです、ちょっとだけ見ていきませんか？「幸福石」です。コウフクイシ。 きれいでしょう？ |
| この石たちはね。ぼくが世界中を旅して、集めてきたんです。旅が好きなんですよ。 行き先も決めずに、ふらりとでかけてしまうんです。知らない国の知らない道を歩いて いるとね。ときどき、声が聴こえてくるんです。 「どうぞ、わたしを拾ってください。一緒に連れていってください。」ってね。 どの石がしゃべったのか、不思議とすぐにわかるんですよ。ぼくは、そういう石を袋に 入れて、大切に持ち帰ってくるだけです。 日本に戻ってくると、集めた石をテーブルに並べてみます。そして、ひとつひとつ 順番に手のひらに載せてみるんです。すると、石がぼくに何を描いてもらいたいのか、 自然とわかるんですよ。そう、ぼくはこれでも、画家のたまごなんです。石に絵を描く のは、お手のものです。 |
この石はね。何百年も前に一度だけ見かけた女性に、恋をしているんですよ。 彫りの深い、髪の長い女性です。ギリシャ系の顔立ちですね。 再現するのに、ずいぶん苦労しました。 こっちの石はね、毎晩見上げている星のひとつを描いてほしいと言いました。 あぁ、その石は、水切りをして遊んでくれた男の子です。もう、その子は、すっかり おじいさんになってしまったでしょうけどね。 ぼくが、思いどおりの絵を描いてやると、石はますます輝いて見えます。 うまく描けないと、石は死んでしまいます。押し黙って、もう二度と口をきいて くれないんですよ。だから、絵をつけるときは、いつも真剣です。 |
どうです？どれか、お気に召しましたか？これなんかどうです？蒼色の魚。 おじょうさんに、ぴったりですよ。え、なんですって？「幸福石」だなんて、 どうせインチキだろうって。どうせ、そこいらの石にいい加減な絵を描いて、 高い値段で売りつけようとしているんだろうって？・・・なるほど。 たしかに、「インチキじゃないか！」と言って、石を突き返してくるお客さんも います。「ちっとも、幸福なんか、やってこないじゃないか。」ってね。 でも、それはこの石のせいじゃないんです。 実をいうと、「幸福石」を持っているだけでは、しあわせにはなれないのです。 「幸福石」は、お守りとは違います。でもね、あなたがちゃんと使い方を守って くだされば、きっと満足していただけますよ。 どうぞ、だまされたと思って、ひとつ持っていってください。いえ、お代は いただきません。一週間経って、何も起こらなかったら、返してくださって 結構です。もし、ご満足いただけたら、ご希望の金額で、お買い上げください。 |
あっ、やっぱり、それをお選びになりますか？使い方は簡単です。一週間、 いつも肌身離さず、その石を持ち歩いてください。そして、ときどき、石に手を 当てて、目を閉じてみてください。こうやって、石の力を感じるんです。 三日もすれば、あなたのまわりにある、小さな幸せが一つ、見つかりますよ。 夜空の星を数えたことがありますか？はじめは星なんてひとつも見えない、と 思っていた夜も、じっと目をこらすと、ひとつ、またひとつ・・・と、見えるようになる でしょう？しあわせも、同じなんです。一番星を見つけたら、もう、しめたもの！ 少しずつ、見えていなかった幸せたちが、姿を現すのです。きっと一週間も すれば、あなたのまわりには、満天の星のように、しあわせが満ちている はずです。 |
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おや、この間のおじょうさんですね。どうです？幸福石の効き目は。いいえ、 聞かなくたってわかります。先週とは、別人のようです。目が輝いていますよ。 では、この石、お買い上げになりますか？ えっ、もう要らない？もう、自分のまわりには、しあわせがたくさんあるって ことに気づいたから、ですって？ 困りましたね。実は、そういう方が多いのです。だから、幸福石は、ちっとも 売れません。でも、いいんです。石もあなたのお手伝いができて、きっと喜んで いるはずです。もし、またこの石が必要になったら、いつでもいらしてください。 いつまで、ぼくがここにいるのかって？さぁ、それはぼくにもわかりません。 でも、だいじょうぶ。あなたは、石なしで、やっていけますよ。どこにいても、 この石のことを思い出してやってください。幸福石はきっと、あなたのことを 覚えていますよ。いつまでも、いつまでも。 |
stone painting :pee
