「何でもいいわ。はちみつなんて、どれだ 　って同じでしょ！」 　わたしは、イライラしながら叫んだ。 　「困りますぅ・・・。当店は、はちみつ専門店 　ですから・・・。」 　女の子が、困ったように後ろをふり向くと、 　黒いスーツの男がテーブルにやってきた。 　長身の男は、首に銀色のティースプーンを 　ぶら下げている。 　「わたしは、はちみつのスペシャリスト、 　ソムリエです。お客様にピッタリのはちみつ 　を選んでさしあげましょう。ちょいと失礼！」 　　ソムリエはそう言うと、いきなりわたしの 　右腕をつかんだ。 　「痛い！」 　チクリと強烈な痛みが体中をつき抜けて、 　次の瞬間、わたしははちみつカフェの 　天井付近をブンブンと飛んでいたのだ。 　何もかもが巨大に見える。どうやらわたし 　は、みつばちになってしまったらしい・・・。

「それでは、お客様、まいりましょうか。 　ダイエット・コースお一人様追加！」 　カフェのドアが開いて、ひときわ大きな 　みつばちが、先頭をきって飛び出した。 　さっきのソムリエに、声がそっくりだ。 　店内から、十数匹のみつばちが、後を 　追うように飛んで行く。 　「さぁ、お客様も早く！」 　ウェイトレスにうながされて、わたしも 　仕方なく、ドアの外に飛び出した。 　「あなた、初めてね！」 　と、前を飛んでいたみつばちが話しかけ 　てきた。中年のオバサンの声だ。 　「飛び方が、まだフラフラしているもの。」 　どうやら、店の常連客らしい。 　「なかなかいいわよ。ダイエットに 　ぴったり！」